○ P.S. I LOVE YOU −前編−
2月の曇天は増して人の心を曇らせる。
身を切る空気、渦巻く木枯らし、木々も動物も春の訪れを耐えてじっと待つ、今だ雌伏の季節。
だからこんな日は登校するのも一苦労。息は白く、風は冷たい。マフラーの中に顎を沈める。ああ、春は遠い。
こんな日は女の子の肌で温まるに限る。
私は獲物を狙う鷹の目で今日の標的を物色した。
朝の桜並木、学園に向かう生徒達は色とりどりのコートを着て列を作る。その中に私は水無月先輩の姿を発見した。
「・・・・・?」
声をかけるのを躊躇い、私は物陰に隠れた。
なぜなら先輩の周りには女の子達が。
彼女を軸にして花が咲いたようにかしましい声が飛び交う。あそこの空気だけ小春日和になっていた。
「―!」
眼があった。
私はちょっと頭を下げて挨拶する。
最近、先輩は人気がある。いや、元から注目されている人だったがそれは敬して遠ざける高嶺の花。それが、今では周りに後輩の子達がひっきりなしに列を作る。
なんか物腰が柔らかくなったというか、角が取れたというか・・・・・。人に緊張を強いるあの刺々しい視線は無くなった。
お供の女の子を引き連れて、談笑しながら先輩は優雅に学校へと向かう。あんなに付きまとわれているのに先輩は嫌な顔一つせずに笑顔を振り撒く。そんな先輩は私は少し不機嫌になった。
ええーい触るな小娘ども、それはあたしのだぞ!
・・・・・と、言っても届かぬ声は虚しい。
私は盛大に溜息を吐く。息は白く染まり中空に霧散した。
(はあ・・・・・・。最近先輩としてないな・・・・・)
先輩が告白した日から、私たちにはちょっと微妙な距離が出来た。それはほんの些細な溝だった。でも、冬になって、先輩が受験で忙しくなるとどんどん離れていくような気がする。かと言ってあの子達のように飛び込む勇気もなかった。
散文的なチャイムがなったら昼食の時間。
「祭、屋上行こうよ」
クラスメイトがいつもお昼を食べる場所へと誘ってきた。
「ごめん。あたし、今日は学食なの」
教室の前で彼女達と別れる。でも、あたしの足は学食とは反対の向きへと進む。
嘘だ、学食なんて。今日の気温と同じくらい私の財布は寒い。
頼めば貸してくれるだろうけど、お昼の一食ぐらいはダイエットに丁度いいと思った。
ぶらぶらと校内をあてども無く彷徨う。でもこの時間帯はお昼を楽しむ生徒がわんさかいて非常に目に毒だ。
そうだ、温室へ行こう。あそこなら誰もこないし。
学園にある植物園、その片隅にあるガラスで囲まれたシンメトリーの温室。大きく縦横に広がるロココ調の間取りはかつてのお嬢様学校のなごりだ。私は古い歴史を匂わせるこの建物が大好きだった。
あたりに誰もいないのを確かめて壁までそっと近づく。
冬は鍵がかかっていて開放されていない(何故かって言うと人が押し寄せるから)が、朽ちた壁と傍に生えているブナを足場にすれば、通気窓から中に入れる。
「よっと」
見事な着地で私は歩道へと飛び降りた。
中は冬でも暖かい。越冬が難しい植物がここで春までの時間を過ごす。
芝生にごろんと寝転ぶとほんのりとした暖かさが心地よい。
(私も春までここで過ごそうかしら?)
「ギュ〜〜〜」
お腹が鳴った。心とは裏腹に体は容赦なく窮状を訴える。
ああ、やせがまん。
「幾島・・・さん?」
顔を上げる。上下ジャージ姿の先輩がそこに立っている。
「み、水無月先輩!どうして?」
手にしているのは小ぶりの水切り。園芸作業でもしていたのかしら?いや、それよりも気になることがあった。
(聞かれてしまった・・・・かも。やばい、超恥ずかしい・・・・。)
「誰かいると思って、お腹空いてるのかしら?お昼は?」
「ええ、まあやんごとなき事情がありまして・・・・その昼飯抜き・・・・」
先輩はクスッと笑みをこぼす。私の顔は再びカーーっとなった。
「よろしければ、ご一緒しません?」
「いいんですか?」
「ええ、作りすぎたので」
先輩は後から大きなお弁当を広げた。
作りすぎねぇ・・・。
お弁当は作りすぎなんてモノじゃない。市松模様の蓋のついた重箱が一、二、三と三段重ね。内容は和風の盛り付け。筑前煮から鶏の照り焼き、てんぷら、等のおかず類とおにぎりに分かれて豪勢なお重が現れた。
「はー・・・・・先輩、どうしたのこれ?」
「・・・・二人分です・・・・その、ご一緒したい人が居て・・・・探していたんですけど。見つからなくって・・・・・」
先輩はモジモジと恥ずかしそうに答えた。その様子は可愛いと言えば可愛いが一方で先輩にお弁当を作らせる生徒がいたことに無性に腹が立つ。
「・・・・・そう、やっぱり止めとく」
「えっ・・・」
私はわき目も振らず出口へと向かう。
(何よ!私は態の良い残飯処理係って言うわけ!)
「でも!見つかりましたから・・・・」
足が止まった。
・・・・・私?
先輩は頷く。
そう言えば、私はいつも学食だったから弁当派の先輩と一緒に食べたことは無かった。
「あの・・・・・迷惑でした・・・・?」
「ううん、うれしいよ」
しょんぼりする先輩に私は慌てて答えを返した。
「さ、食べましょう。昆布の旨煮がちょっと失敗しちゃって・・・・味の保証は出来ませんけど」
「これって先輩が作ったの!」
驚いた。ピアノも弾けるし料理もできる。おまけに成績優秀。まさしく完全無欠のお嬢様だなこりゃ。
「頂きまーす。さ〜てお味のほうは?」
お箸を受け取ってレンコンの煮物を口に運ぶ私。慎重に見守る先輩。
「おいしい!」
「良かった。たくさんあるからお好きなだけどうぞ」
先輩はカップに湯気のたつお茶を入れてくれた。
「はい、お茶」
「あ、汚れちゃった」
「はい、お手拭」
自分の食事そっちのけで甲斐甲斐しく給仕をしてくる。どうやら、私の世話を焼くのが楽しいみたい。
「先輩も食べて。そうやって見られると恥ずかしい」
「ふふ、家では傅かれるばかりでしたから。世話を焼くのが楽しいですわ。私って変でしょうか?」
「そんなことないよ。料理うまいし」
先輩から聞くとちっとも嫌味に聞こえない。
「どういたしまして。小さい頃からよく母に習わされましたの。好きな人に作ってあげれるようにって」
私は先日の告白を思い出した。
唇の柔らかさと、可愛く悶えていた先輩の顔も。
「・・・・・・」
「・・・・・・・」
沈黙が場を支配した。アノ時を思い出して私たちは頬をを染める。
いかんいかん。
私は話をそらすことにした。
「いつも、ここでお弁当食べてるんですか?」
「いいえ、今日は偶々。あそこに鉢植えが並べてあるのが見えるでしょう?」
先輩が指差す方向には段上に茶色の鉢植えが並べられてある。ひーふーみーとかなりの数。
「あれの手入れに来たのよ」
「なんですかあれ?」
「マーガレットよ園芸部の卒業制作で花壇を作るの。冬は手間がかかって大変ですわ、最低七度は維持しなきゃいけないし、暖めて乾燥し過ぎるとハダニがつくから適当に霧吹きしないといけないし」
「そんなに大変なら他の花にすればいいのに・・・・」
「いいえ、マーガレットじゃ無いといけないんです!絶対に!」
凄まじい勢いでにじり寄ってくる先輩。あやうく口に運んだしいたけを落としかけた。
「?―ちなみにマーガレットの花言葉は?」
先輩はそれに気付いて居住まいを正す。
「貞節」
うーん。先輩と貞節。それは相反するテーマなんじゃないかしら?だってあたしがもう貰っちゃってるし。
「わたくしにはもう、似合わないかもしれませんけど・・・・・」
むこうも自覚しているみたい。
「でも、先輩余裕ですねこんな時期に学校に来るなんて。推薦、何処に決まったんでしたっけ?」
三年生は既に受験シーズン。赤本や単語帳に熱心に眺める時期だ。学校も登校日以外には三年の生徒達が登校することは無い。
「都内の市立大学ですわ」
「先輩の成績じゃあもっといいところにも行けたんじゃないですか?」
「そうですけど、植物学を専攻したくて選びましたの。おかげで我が家は始って以来の大喧嘩ですわ」
「それって、かなり大変なことなんじゃ・・・・・」
なにせ先輩は水無月家の長女。将来は良き妻、良き母になるために箱入りで育てられたお嬢様だ。当然、自分の意志で将来を選ぶことなど出来ないはずだった。
「母は味方してくれます。大丈夫、私将来は植物学者になりたいんですの。だから家を追い出されても後悔しません」
先輩・・・・・。
確かに彼女は変わった。強くしなやかに未来を見据える瞳、それはあえて困難をも受け止める猛々しさと包容力が両立している。みんなに人気があるのも解かる気がした。
私は気付く。土に汚れた手、煤けたジャージの色、嬉しそうに自分の身の上を話す先輩はもう高嶺の花ではない。いつもなら似合わない貧乏くさいジャージが妙にマッチしていた。
なんだか・・・・・今日の先輩はとってもいい。じわじわと体の奥からあったかいものがにじみ出る。
(やだ・・・・こんな所で・・・・・・)
だが、お弁当はもう残り少ない。食い気が収まったら今度は色気が復活した。私の心に住む悪い虫が動きはじめる。
食後をあったかいほうじ茶でしめる。ズズッと最後まで啜って、私はおもむろに行動にでた。
「小夜・・・・・・・」
名前で囁く、それは合図の一つ。私と先輩の間で交わされる秘密の符合。
私は芝生に手をついて、先輩の顔を撫でながら優しく呟く。
「お姉さま・・・・・」
「それはなし、今は名前で呼んで」
「うん、祭・・・・・」
弱弱しく不安げに先輩は初めて私の名前を呼ぶ。
私は先輩の不安を断ち切るために口をふさいだ。
「ンンッ・・・・ン・・・・」
唾液の交換がさらなる興奮を呼ぶ。
唇をピチャピチャとはしたなく、舌を絡めていやらしく。
「ンンッ・・・・!」
気持ちよくしてあげたい。珍しくそんな気持ちが先走った。
ドサッと先輩は芝生に倒れる。
私はそのままジャージの下にある体操着をたくし上げると、あっという間にブラを脱がす。
「あ、・・・・ダメ」
「どうして?」
こんなに昂ぶっているのに、もう止まる理由はない。
「肥料を運んでいたから・・・・。その、汗をかいて」
私は先輩の首筋を舐め上げる。
「ああっ!!」
「しょっぱいよ・・・・先輩の肌・・・・・・」
胸に顔を埋めると仄かに土の香りがした。やさしく包まれるような安心感。
「このままでいいの、このままじゃなきゃいや。ね、いいでしょ・・・・小夜?」
先輩は俯きながら頷く。私が押し切る形は珍しい。いつもは先輩・・・いや、小夜から近づいてくるのに。
ショーツをずらし小夜の全てをさらけ出す。私も裸、誰もこない秘密の花園で私達は肌を重ねる。
「小夜の肌って・・・・・とっても気持ちいいよ・・・・」
「ンッ・・・、そうやって触れられると・・・・」
「ふふ、たまらなくなるでしょ。私も・・・・・」
肩から腰に優雅なラインに沿ってゆっくりと手をすべらす。つやのある肌の感触に私は夢中になる。
「小夜、ここ・・・・」
「あ・・・・・」
いつもより慎重に胸を攻めた。
タプンとした肉厚の重み、それは掌にもてあますくらい。私は二つの膨らみを逃しまいと腕を振るう。心臓の鼓動が止まらない。
「アアッ・・・・・ンッ・・・・・っふう・・・・・はあ・・・・・」
(小夜の・・・・・固くなっている)
目ざとい私は中心にあるピンクに近い赤を発見すると、それにめがけて舌を出した。
「ジュル・・・・ジュパッ・・・・・チロチロ・・・」
「ああん!舌で・・・・・・」
「ジュルッ・・・・・、ん・・・美味しい・・・・・」
うっとりとした表情で私は呟く。
右と左に訳隔てなく指や舌で乳首を弄った。
「まつ・・・り・・・・」
「小夜?」
「下も・・・・・お願い・・・・・・」
先輩は股を開いて谷間を見せつける。
こんなに可愛い懇願なら聞かない法は無い。
「んくっ!・・・・・・・」
「ピチャ・・・・・ジュルジュル・・・・ピチュ・・・・ンハァ・・。気持ちいいよね。ここ舐められるの」
「・・・・・・・イイ・・!ン・・・・はあっ!」
「お豆も・・・・・ん、プチュ・・・・このヒダヒだも・・・・レロ・・・・私が開発したんだもん・・・・私だけの・・・・・」
「クッ・・・・・・アアッ・・・・・」
小夜は快感に腰を曲げる。
蜜が溢れ、女性の匂いが空気を蒸らす。それは花や木々の匂いと混じり合い濃密な空間を作り出す。
「小夜・・・・・ここ、すっごい溢れてくる・・・・舐めても・・・・・舐めても・・・・止まらない」
「久しぶり・・・・・んんっ・・・ですから・・・・・」
「本当・・・・?あの子達に・・・手を出したりしなかった?」
私は舌を離して右手を谷間に添える。
「しません・・・そんなこと」
「じゃ・・・・・にゅぷ・・・・・オナニーは?」
ニュプッと音を立てて人差し指が沈んだ。ぐりぐりと指を曲げて壁を擦る。
「はぁんっ!・・・・しっ・・・しました」
「はしたない・・・・・クスクス・・・・。で、何を想ってしたの?」
「祭のを・・思い出して・・・・・・」
指の動きが止まる。
「キスの時の唇の柔らかさとか・・・・・あそこを舐められる舌の感触とか・・・・・」
先輩が・・・・・私を想って・・・・・・。
なんだか体の芯が熱くなってくる。私は無防備に中腰で裸をさらしたまま、おまけに口は半開きで顔を真っ赤に染めていった。
「祭?」
愛撫が止まった私を先輩が怪訝な顔で覗き込む。
やだ!見られてる!
「見ちゃダメ!」
急に恥ずかしさが全身を襲った。
私は顔をそむける今さらながら胸とアソコを隠して後を向いた。
(なんで?なんで今日はこんなに恥ずかしいの?ただ、先輩のアソコを・・・・・アソコを・・・・)
頭に血がのぼった。
心に想うことすらままならない私。なんで?
「祭・・・・・今日は、どうしたの?」
先輩が後から抱きついてきた。
ああ、肌が密着したところが熱い。
「先輩・・・・・」
私はすっかりいつもの口調に戻っていた。
「今日は・・・・変なんです。胸がドキドキして・・・・恥ずかしさで死んじゃいそう!」
「そう・・・・でもね」
先輩は後ろから私の谷間へ手を伸ばす。キラキラと濡れて、感じているのがバレバレだった。
「あ・・・・」
「ここでやめたら・・・・あなたも困るんじゃなくて?」
クチュクチュといやらしい響き。体は正直だった。
「でも・・・・・でも・・・・」
「じゃあ、一緒にしましょう」
「一緒に・・・・・?」
「そう、女の子同士だから一緒にできること。あるわね?」
「ン・・・・」
私はキスで口を塞がれた。
こんなにも恥ずかしいのに振りほどく力はない。でも、先輩のキスのおかげで緊張がスーーっと抜けていく。
そのまま私は芝生へ押し倒される。
そういや、誰かに押し倒されるなんて初めてなんじゃないだろうか?先輩が初めて・・・・。
「先輩?」
先輩は私の体に跨って。足のほうを頭にする。
いわゆるシックスナインの体勢、お互いを愛し合う形。
「まずは・・・・私から・・・・」
「っはあっ!」
ネチャッと舌が侵入する音が大きく響く。
「ピチャ・・・・ピチュッ・・・・」
「はあ・・・・先輩・・・・上手い・・・・」
完全に攻守が逆転した。私に比べれば拙い舌使いだったけど、初めて舐めるにしては上手すぎる。
「たしか・・・・祭はこうして・・ン・・ズズッ!・・・ジュルジュルジュル」
「ああああっ!」
先輩が舌を擦る、這わせる、口で吸う。私の与えたあらゆる舌技をお返ししてきた。
「ほら、祭も・・・・」
「ハア・・・・ハア・・・・はい・・・・」
眼前には濡れたアソコが顕になっていた 私は精一杯の勇気を振り絞ってさっきの続きを開始する。
「ンンッ・・・・」
「ああんっ・・・・」
何時の間にか恥ずかしさは消え、お互いを愛することに夢中になる。
くぐもった声、溢れる雫が互いの顔を汚す。舐めるたびに快感をお返しされる。いつまでも続く快楽の円環に、私たちは時を忘れた。
「ダメええっ!イくっ!イっちゃうぅーー!!!!!」
「ああっ私もっ!!!!!!」
どちらとも無く果てる。
永遠の快楽を感じて二人とも力無くその場に突っ伏した。
「っくっしょん!っきしょうめ」
親父臭いクシャミが温室に響いた。
「クスッ」
先輩が居る。私の後ろに感じる確かな体温。
「寒い?」
「ううん」
先輩はそっと体に両腕を回して私を暖めてくれた。私は甘えるように先輩に体重を傾ける。密着する肌と肌に安心感を覚えた。
私たちは裸のまま。先輩のコートを二人で羽織るように重なり合い芝生の上に座っていた。
他人には特に教師には見せられないきわどい艶姿だ。私が裸のままのだかといって落ち着きを無くさないのは、多分、先輩のせい。
「今日はいっぱい感じちゃった・・・・先輩、とっても上手いんだもん」
「ありがとう。でも、夢中だったから。よく覚えてないの」
今日は不思議、先輩に奪われたような、与えられたような奇妙な気分。
「手を出して」
私はちょっと不思議な顔をしながら、先輩に言われたとおりに右手を広げた。
「じゃ、目を瞑って」
指先のほうでそっと固いものが触れる。
「いいわよ」
目を開ける。
「ー!」
声もなく驚く。右手の人差し指に嵌る銀色のリング。だって人差し指だよ!
「先輩・・・・・これ・・・」
「本当は2月の14日に差し上げるつもりでしたけど・・・・あいにくその日は予定がありますの。受け取ってくださる?」
右手の人差し指、リング、バレンタインデー。いやでも解かる先輩の気持ち。私の中でも今だ整理はつかない心がある。でも・・・・。
先輩は顎を右肩に乗せる。傍にはあたしにむける飛びっきりの笑顔。
この笑顔があれば何とかなる、そんな予感。
「うんっ!」
私も飛びっきりの笑顔を返した。
天に指輪をかざすと雲間から光がこぼれる。外は身を切るような冷たさだけど、先輩と一緒だと暖かさに包まれる。
指輪は光に反射して輝く。
私たちははしたない恰好のまま、陽光に煌く指輪を飽きもしないで眺めていた。
○ P.S. I LOVE YOU −後編−
深く暗い、光の届かない部屋。いくつもの手足が闇の奥で蠢いている。
「はあん・・・・・」
「くふ・・・・ピチャ・・・・・ジュジュッ!・・・・ジュルルルル」
その正体は女の子同士で痴態をめぐらす集団。
幾人ものうら若き乙女が指を絡ませあい愛を綴る。
「季乃のここ、とってもエッチ・・・ジュル・・・んふ・・・。幾ら啜っても満たされないもんね」
「はあん・・・ダメッ・・・・・もっと優しく・・・」
「私のここ、こんなに切ない・・・だから・・・・・・・」
「ああ、そんなに見せつけられたら・・・・・」
ピチャピチャと蜜をかき回す音が幾重にもかさなる。時には舌で、指で、腰の密着で。途絶えることなく嬌声のオーケストラを奏でていた。
その様子を端のほうで眺める女の子が一人、快楽の饗宴に参加せず眉間にしわを寄せながら眺める。
ショートボブの髪は肩まで届かず、つんとした鼻梁は彼女の顔に小さく納まっている。いつもどおりなら可愛い笑顔がそこに出来上がるはずだが、今日の彼女は顔面に伝わる歪みを抑えようと孤軍奮闘していた。
だが、人の我慢にも限界がある。そして、彼女は我慢強い方ではなかった。
「だあああああ!!!、やめっ!やめっ!パンツ上げ!」
彼女は耐え切れなくなって雄叫びを上げながら傍にあったスイッチを入れた。
パッと明かりがともり、体が重なった女の子達が照らされる。
「ちょっと何するのよ円!」
「あん、私もう少しで行くところだったのに」
喧々轟々と非難の嵐。だが、円と呼ばれた女の子はひるまず、それどころか顔面のしわを三割増しで言い返した。
「何が悲しゅうて、ネコ同士で慰めなきゃいけないわけ?お姉さまが水無月先輩に取られたからって、あんたがた本当にそれでいいの?」
しゅんと萎む非難の嵐。
「どうせ・・・・私達なんてもう相手にしてくれないし・・・・・・」
「そうよね、実際。指輪なんてされたら」
「だから。私達は私達であぶれた者同士慰めあえばいいのよ」
「よくなぁい!」
勢いあまって壁を叩く。
「断じてよくないわよ・・・・・・。子猫同盟規約第一条!」
『お姉さまの体は共有財産』
きっちりと全員で唱和する。
「よろしい、まさか忘れたわけではないでしょうね?あの高慢ちき女が横槍入れなけりゃ今ごろ私達はバレンタインのチョコの用意でもしてる頃よ!」
ツカツカと部屋の中央に立ち、皆の姿を眺める円。固い拳を振り回し聴衆を鼓舞する。
「想像して御覧なさい。言いつけどおり下を履かずにお姉さまに舌を挿入された時の恍惚感。二人っきりで過ごせる密度の濃い空間」
女の子たちはアノ時の交合を思いだし。それぞれ頬を染める。
「それが全てあの女一人のものに!今でもどこか、例えば誰も目が届かない体育倉庫で仲睦まじく逢引しているかもしれない。本来ならばこの中の誰かが授けられる愛情を!そう、私達が管理していた宝が一人の女の情実によって奪われたのよ!」
しーん。
静まる部屋。
「でもさ・・・・」一人の女の子が控えめに呟く。
「お姉さまが幸せなら・・・・私はそれで・・・・・」
「身を引くってわけ?冗談、奪ってこそ愛!よ。あんた達悔しくないの?」
「そ、そりゃあ・・・・・悔しいわよ!」
「お姉さまが居ないと体が火照って・・・・夜が寂しくなっちゃう・・・・。うう、お姉さま・・・・・・もう、愛してくれないのかしら?」
「もう一度・・・・もう一度でいいわ・・・・・・お姉さまと」
次々と堰を切る感情。天を仰ぐ者、力無く俯く者その反応は様々だ。
涙を白状する女の子を見て円は好機を感じる。
「だったら。行動あるのみ!これより、お姉さま奪回作戦を敢行する!日付を変える鐘がシンデレラの魔法をとかすが如くあの女の仮面をはがしてやるの!名づけてー『12時の鐘作戦』!」
「シンデレラ・・・・・?」
「12時の鐘って・・?」
女の子達は顔を見合わせる。
「円・・・・あなた、何をするつもり?」
「逆キューピット、要するにあの女とお姉さまの関係を壊せばいいの。ちょっと耳をかしなさい」
ゴニョゴニョ、ヒソヒソ・・・・。
謀は密をもって善しとする。
「円ちゃん・・・・えげつな・・・・・」
「そ、そんなこと無理!私だって女の子だもん」
「それに、奪われたとはいえ・・・・水無月先輩って優しいし・・・・」
「うん、素適だよね。先輩にそんなことできないよう」
俄仕込みの結束は早くも綻びを見せた。
「みんな、これ見てちょうだい」
円はスカートをたくし上げる。
「あっ・・・」
皆声をのんだ。何もつけていない無防備な蕾、薄っすらと翳る茂みの奥からはキラキラした液体が滲んでいた。
「あの日、お姉さまに口付けされた日から、私はここの手入れを欠かした事はないの」
今度は情感たっぷりに切なげに呟く。
「今でもあの時のことを思い出すと体の奥がうずいて・・・・・一人眠る夜を幾度も過ごした。もう女の子しか愛せない、いやらしい体に開発されて、さっきもあんた達の営みを見ててずっと濡らしてたの・・・・・」
「あんなに濡れて・・・・・辛そう」
「・・・・ああ、舌で慰めてあげたい・・・・」
ゴクッと唾を飲む音が聞こえた気がした。
「あなた達もそうでしょ?寂しい、悔しい、私達は何も悪い事してないのに何故?理不尽よね」
複数の女の子は無意識に頷いた。もう一押し。
「だから、お姉さまは私達と一緒にいるのが相応しいの。今みたいな一極寡占は間違い、間違いは改めないといけないそれが私達の義務。奪い返すのではない。あるべき状態に戻すのよ」
「そ、そうよね・・・・」
「私達が、お姉さまを救わないと・・・・」
「やりましょう!これは聖戦なのよ!」
「おー!」
口々に賛同の意を唱える女の子たち。
合目的性を得て、円の理論武装は遂に女の子達の心を動かす。今や彼女達は円の声に呼応して口々に聖地回復を叫ぶ革命の戦士と化した。
「でもさぁ・・・・・」
おっとりした女の子が口を挟んだ。
「『12時の鐘作戦』だったら、どっちかって言うと私達が意地悪継母みたいじゃん?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
静まり返る少女達。一斉に発言した女の子の方を振り向く。
「季乃・・・・・あんたって、どうしてそう盛り下げること言うの・・・・・・」
「ご、ごめん・・・・・」
経緯はともかく、こうして『12時の鐘作戦』は決行された。
放課後の廊下を足取りも軽く、私は先輩のいる温室へと向かう。
指に光るのはシルバーリング。私と先輩の愛の証。
「嬉しそうね、祭」
「へへ、なんたって愛があるもんね」
クラスメイトの頼子にも浮かれるような口調で答える。私の心は一足早く春へと向かっていた。
「シンデレラはご機嫌が宜しいようで」
「シンデレラ?」
私は自分の足元を確認した。当たり前だがガラスの靴なんて履いてない。
「違うわよ、後輩の女の子たちがそんな話をしてたの。祭はシンデレラなんだって」
シンデレラ(灰かぶり)ねえ。
後輩の女の子と言うのはもちろん私の元子猫ちゃんたちを指すのだろう。いまだに先輩との関係を納得しきれない子猫ちゃんたちとは違い頼子はいとも簡単に友達へと身分を移してくれた。
でもその娘たちのキーワードが「シンデレラ」か。変なこと考えてなきゃいいけど・・・・。
指輪は覿面の効果を現した。
それは事実上の恋人宣言、先輩との逢瀬を楽しむ私の背後には元子猫ちゃん達の悲鳴が聞こえてきそう。
実際何人かの女の子は今だ私に擦り寄ってくる。もう、その気は無いって言ってるのに・・・・・。
「お姉さま!」
諦めの悪い子猫が一匹、今日も私の行く手をふさいだ。
「円ちゃん。またなの?」
元子猫の中でもかなりのお気に入りだった円ちゃんが。彼女との関係は深かったからなぁ・・・・・。さぞや情も深かろう。
「いいかげんにしてちょうだい。何度も言ってるけど私はもうあなた達の相手は出来ません。この前説明したでしょ?」
私は露骨にうんざりするような口ぶり。確かに薄情かも知れないけど、けじめはつけないと。
「でも、私納得できません!」
「納得してもらわなくていいわ!私は無視するだけだから。それと、その「お姉さま」ってのもやめてよね、じゃ」
「そんなっ!」
未練たらたらの愁嘆場。この一週間でこれを一ダースは体験した私はいいかげんうんざりしてくる。
悲嘆に暮れる女の子を背後に去って行く私。ほんとお定まりのシチュエーション。中島みゆきが聞こえてきそうね、まったく。
とは言うものの、今回の一件は私も反省するところ少なくない。
手当たり次第のガールハント。お姉さま、お姉さまと持ち上げられ、いい気になっていた報いがここに現れただけだ。
まあ、これに関しては時を置くしか解決は無いけど。
私は彼女達が冷静を取りもどすように願いつつ、その場を後にした。
否−しようとした。
「お姉さま!」
「またかよ」
「お願いです。お姉さま私の話を聞いてください」
「だぁ〜、ついて来るな!!!」
まったく・・・・・。今日は厄日?
温室を取り巻く複数の影。
その中の一人が携帯を持ち出し秘密めいた会話をはじめる。
「ピッ・・・・・こちら、マトリックス1、現在フェイズ1進行中。直ちにフェイズ2へと移行せよ、オーヴァ?」
「了解、こちらノーベンバー2、状況を開始する・・・・ピッ」
携帯を仕舞って深呼吸。目標に気付かれないよう回りにハンドサインを送ると彼女達は温室へと進軍を開始した。
「フンフンフンフンフ、フ、フ、フ、フンフンフンフーフフン」
鼻歌交じりでスコップを突き刺す小夜。口からこぼれるのはお嬢様らしくクラッシクの名曲、ベートーベン第9番歓喜の歌。
今か今かと祭との逢瀬を待ちわびる彼女にとっては相応しい選曲だった。
あれから、一週間。彼女達の蜜月は続いている。
一緒の登下校、お昼休みにはお弁当を作り、あまつさえ口にあ〜んと運んであげたりもしている。
初めてのデートにハンバーガー。庶民の食事の珍しさも手伝って、祭と一緒ならファーストフードさえ満漢全席に見えた。
甘い時間を共有する彼女達。
新鮮だった。
祭と過ごす時間が増えるたび世界が変わる。自分の殻を壊し、受け止める、愛しい存在。
しかし、そんな二人の未来に不安が全く無いというわけでもない。
そんなことを考えてると、スコップを握る彼女の前に複数の影が差した。
「あら・・・・・」
原因が現れた。すなわち革命戦士と化した子猫同盟の面々。
リーダー格の女の子がセミロングの髪をかき分けながら一歩前に出る。
「宜しいですかせんぱ・・・・・い?」
しかし、いつもの先輩の変貌ぶりに二の句が続かなかった。
無理もない。小夜は今日も今日とて熱心に土いじりに精を出すため、ジャージ姿に頭にタオルを巻いている。その姿はいつものエレガントさからかけ離れた存在だが、生命力が溢れる肌に光る玉の汗、嬉しそうに鉢を植え替えるその様子も妙にマッチしていた。
「みなさん。ごきげんよう」
加えて天使もかくやというこの笑顔。険しい眉間をこしらえたはずの強面も次第に緩んでくる。革命の少女達は小夜のバックに光を見た気がした。
「それで、一体何の御用かしら?」
「あの・・・あたしのお姉さまになっ・・・グフォ!」
横から肘を突き立てられ冷静を取り戻す。
『違うでしょ!』
「つつっ・・・・ゴホンッ!失礼」
気を取り直して。
「今日は水無月先輩に話があるんです」
「まあ、こんなに大勢で?」
少女は険しい眉を取り戻した。
「正直に言いますけど。私達先輩のおかげで迷惑してるんです!たった一人が裏切ったおかげで私達は用済みですよ。酷いと思いません?」
「ええ・・・・」
小夜も元はといえば子猫の一人いや一匹。彼女達と同じく祭を取り巻くペットの一匹に過ぎなかったのだ。
気持ちは痛いほど解かる。
祭は心配するなと言っていたが、いつか自分にも報いを受けるときが来る事を知っていた。そして今がその時だと彼女は察した。
「ごめんなさい・・・・・、ですけど・・・。私は奪うつもりなんてなかったの。あなた方だって今まで祭と愛を囁きあったことはるでしょう?だから私も正直に気持ちを伝えただけ」
「祭ですって?盗人猛々しい!」
小夜のあけすけな意見に一気に外野のボリュームが上がった。
「どういう神経してるのかしら?」
「お嬢様はこれだから・・・・」
遠巻きにして対立する多対一の構図。突き刺さる視線を前にしても小夜はいたって柳に風。憎悪の視線が空回りした。
「そうして私は選ばれましたわ。そのことを否定するつもりはありません」
「じゃあ、奪ったことは認めるんだ」
「ええ。だから私にできることがあればどんな償いでも致しますわ」
「ふん!・・・・・いい度胸だこと」
彼女達の中には純粋に先輩として小夜を慕ってくれた娘もいる。小夜は憎悪と嫉妬が混じった感情を複雑な気持ちで受け取った。
「じゃあ。服を脱いで。もちろん全裸よ、下着は無し」
意地悪くセミロング少女が宣言する。回りも皆笑っていた。できるわけ無い。泣いて懇願するまで虐めてやろうと期待に満ちた顔、顔、顔!
「解かりましたわ」
「へ?」
平然と承諾する小夜に肩透かしをくらう。呆然と佇む少女達を尻目に小夜は服を脱ぎ始めた。
「んっ・・・しょ・・・・」
ジャージの上下が地面に落ちる。
腕やお腹から覗かせる白い肌に女の子たちの笑いが止まった。
ビーナスのような成熟したプロポーションが徐々に明らかになってくにつれて、全員の目は釘付けになる。
「ゴクッ・・・・・・」
誰かが唾を飲み込んだ。
「これで、よろしいんですの?」
そこに現れたのは一つの芸術だった。
きめ細かい肌、澄んだ瞳、さらさらと微風にそよく髪が小夜の繊細さを強調する。
目の前に現れた裸に少女達は気を呑まれる。
「・・・・え、ええ。いいわよ次はね・・・・」
一瞬見とれていたセミロングの少女が言葉を継ぎ足す。
「あ、足を広げて私達に懇願するの・・・・・・私達によく見えるように。私の体を慰めて下さいって」
「・・・・・・・・・」
黙った小夜を見て今度こそ優位に立ったと確信する。
(ふん!いい気味よ!そんなことできるわけが・・・・・)
「なっ・・・・・!」
しかし、徐々に広がり始めたつま先に声を失う。
小夜は艶っぽく上気した頬で囁いた。
「お願いします。・・・・・私の体を慰めて下さい・・・」
そっと上目遣いで覗く瞳に吸い込まれそうになった。もちろん周りの少女達も。
『先輩・・・・・すご・・・・・』
『きれい・・・・・・』
一斉に漏れるせつなげな溜息。これではどちらが主導権を握っているのか解からない。
いつの間にやら少女達の頭の中からは当初の目的は消え去った。変わりにもたげてくるのは生理的な欲求。
気丈に振舞うように見えても小夜も一介の女子高生。薄っすらと潤いを持つ瞳と恥ずかしげに肩を振るわせる姿が少女の加虐心に火をつけた。
「じゃあ・・・・・・・。これから私の言うことに逆らわないように。もし、反抗したらお姉さまにばらすわよ!あなたが誰の前でも股を開く淫乱だって密告してやるから!」
遂に理性の仮面が外れる。自らの欲求に従い彼女は小夜に命令した。
少女達にも驚愕の顔を浮かべる、どうやら予定外のシナリオらしい。
「それは・・・いくらなんでも」
「やり過ぎじゃない?」
「黙ってて!さあ、自らを慰めなさい」
「えっ・・・・・・」
「えっじゃ無いでしょう。さっき言ったこと忘れたの?口答えしないの。さあ、早く!」
「・・・・・・・」
ほんの少しの逡巡。
だが、ぐっと覚悟を決めて。
小夜の指が股間を滑った。
「んぐっ・・・・!」
指が谷間に侵入する。
たちまちあふれ出る泉は、ねっとりとした女の香りが少女達の鼻腔を擽った。
「ふふ、すごいいやらしい。いい眺めね。さすがはお姉さまを虜にした体だこと」
「いや。・・・・・・・言わないで・・・・・」
恥ずかしそうに俯く小夜の姿に、益々興奮を覚えた。
「嘘おっしゃい。ここをそんなに濡らして。本当は期待してたんじゃないの?」
「そ、そんなこと・・・・・・・・」
これには流石に小夜も顔を赤らめた。既に立っていられる状態ではない。
地面に膝を落したまま、アソコを弄くる。広げたり閉じたり、ギャラリーへと見せつけるように・・・・・。
先ほど感じた複数の視線が今は羞恥の感情となって突き刺さる。
(み、見られてる・・・・・みんなに・・・・・)
「はうっ!・・・・・・・」
強烈な快感が全身を襲う。
「いい恰好ね。いくら堪っているとはいえ後輩の前でオナニーなんて、私にはとても真似できないわ。アレのことしか頭に無いのかしら?」
「うっ・・・・・わ、私・・・・そんな女じゃ・・・・・」
「いいえ!あなたはそんな女なのよ!音が聞こえるくらい濡らして・・・・・この変態!」
「やぁっ・・・・・・!」
加速した歯車はもはや止めどがない。
「ふふ、悶えちゃって。もっと、もっと気持ちよくなりなさい、左手も使って。そう、胸を触るのも忘れずにね」
「ああ・・・・・・・・・、はあっ!・・・・・・くぅ!・・・・・・」
波のように押し寄せる快感に抵抗できない。こんなに大勢に見られているのに、小夜の体は心とは逆の反応を示す。
(ご、ごめんなさい、祭・・・・・・)
小夜の唇が小さく祭の名前を呼んだ。だが、祭のことを考えると余計に手の動きが止まらなくなる。
「ピチャピチャ・・・・・・ヌルッ・・・・・・ジュパッ!・・・・んんっ・・・・・・・・・・」
(そ、そんなっ・・・・・どうして・・・・・)
谷間から溢れる蜜が手から零れ落ちた。愛液は芝生に向かうようにキラキラした細い線を描く。
「・・・・・・あなた。今、お姉さまのことを考えたの?」
「!」
「そうよねえ。お姉さまの舌を考えると濡れてきちゃうもの。私だってそうよ。たっぷり思い出しなさい。どうやって愛撫されたのか。私達にも聞かせて欲しいわ」
「・・・・・・・・・」
「聞かせろ・・・・と、言ってるの」
ギラギラした瞳には欲望が篭もる。自分の言葉どおりに小夜を支配できる異常な状況に彼女は暴走した。
「・・・・・・・・祭は、いつもここを美味しそうに舐めてくれ・・・る・・・・・。顔を私の股間に・・・・んっ・・つ、突っ込んでから・・・・・・ヒクヒクと、鼻を鳴らして・・・・」
紡ぎだされる言葉に乗って手の動きは徐々に早まっていく。
「そして・・・・・舌が侵入したら、もう・・・・・離してくれない・・・・・・。祭が満足するまで延々舐め続けられ・・・・ふぅんっ!・・・・はあっ・・・・・。その間・・・私の意志とは関係なく・・・・舌がう、・・・・動きつづけて・・・。私は・・・・・何度も・・・・・何度も・・・・・イかされて・・・・・あああっ!」
腰を落とし肩を震わせる小夜。少女達はその様子に完全に魅入っていた。
『はあっ・・・・・・・・嘘ッ!そ、そんなに・・・・・・・・』
『先輩・・・・・・気持ちよさそう・・・・・。あ、あんなに・・・・・溢れちゃって・・・・・・』
『あ、あんなの見せられたら・・・・・・私も・・・・・・・』
微かに聞こえるギャラリーの囁き。見世物は遂にクライマックスを迎える。小さく肩を震わせて小夜は高みへと到達する。
「も、もう・・・・・・あっ・・・・・イくっ!!・・・・・ああああっ!!!」
上擦った声を天井に向けて発しながら小夜が果てた。
「はあ・・・・・・はあ・・・・・はあ・・・・・」
小夜の自慰行為に当てられて何人かの女の子は小さく肩を振るわせる。太腿をモジモジと擦り合わせ落ち着きが無い。
女の子たちの下着の奥から洩れる微かな香り、空気を蒸らし倒錯した空間へと作り変えていく。
(も、もう・・・・我慢できない・・・・・)
小さく上下する胸、上気した肌、女を感じさせる媚態が少女達を魅了した。
誘っていた。顕になった胸が、蜜で濡れる蕾が少女達を誘っていた。
小夜のほうへと無意識に足が伸びる。
スッ・・・・・。
「・・・・・?」
小夜が顔を見上げるとポニーテールの女の子が何もつけていない下半身を見せつけて立ちはだかった。
「舐めて・・・・・・」
ピチョ・・・・・・・・。
「んんっ・・・・・・」
柔かかな蕾を押し付けられる。既に蜜を垂らした蕾はたちまち小夜の顔をベトベトにした。
「好きなんでしょう。ここを舐めるの・・・・・舐めさせてあげる。私の・・・・・」
「んんんっ!」
口をふさがれ、抗議の声にならない。逃げようにも少女の両腕はしっかりと小夜の頭を固定していた。
「ずるい・・・・・私も・・・・・」
「私だって・・・・・」
いつの間にか小夜は少女達に囲まれている。
少女達の手が小夜の体を覆った。
(こ、こんな事・・・・・!)
小夜の意思を無視して少女達は近づいてくる。
「わ、私は・・・・・先輩のおっぱいを・・・・とっても柔らかそう」
「じゃ・・・・じゃあ私は・・・・先輩のアソコを舐めてあげる・・・・・・。いっぱい感じていいからね」
「あん、私も・・・・・」
「んんっ・・・・!」
欲望にのまれた少女達は小夜の体のありとあらゆる部位を使って慰めはじめた。胸同士を重ねる、指を蕾へと導く、舌で小夜のアソコを擦る。自らの蕾を小夜の肌へと擦り合わせる少女も居た。
「せ、先輩のお尻・・・・・はあ・・・とってもすべすべしてる・・・・」
「先輩・・・・お願い・・指を動かして・・・・・こ、このままじゃ切ないよぅ・・・」
「ピチャ・・・・・。ふふっ、早速溢れてきた・・・・んんっ・・ぷふぁ・・・・・美味しい・・・先輩のここ。お姉さまが夢中になるのも解かるわ・・・・・」
「んぐっ!!んんんっーー!」
一度に攻められた性感帯は異常な快感を呼び起こした。
無数の腕が絡み合い、幾多の足が重なり合い、肌を愛液が濡らしていく。
体中のありとあらゆる柔らかい部分が密着しあう度に、頭の中で閃光が幾度となく瞬いた。
(ご、ごんなさい・・・・・祭・・・・・)
「ほら・・・・先輩・・・・・お口がお留守になってる・・・・・」
しかし、圧倒的な喘ぎ声を前にしてその声かき消されていった。
「あ〜〜、エライ目に会った・・・・・・」
温室前の中庭で私は一人ごちた。
と、安心したのもつかの間、後方から黄色い声が聞こえてきた。
「お姉さま〜〜〜〜!どちらですか〜〜〜〜?」
ええい、しつこい!
次第に近づいてくる足音に追われて、私はすばやく物陰に身を隠した。
「どう?見つかった?」
「ううん、引き離されたみたい」
すぐ傍で額を付き合わせる少女達。頼む、このまま見逃してくれ。
「それじゃあっちへ」
再び遠のいていく足音に私は縮めた体を開放した。
「ふ〜〜〜〜〜。まったく何だって言うのよ」
度重なる逃走劇、今日だけでもフルマラソンを体験したわ。
早く温室に入ろう。
少なくともあそこならおいそれと入ってこれない。
私はキーホルダーから温室の鍵を選んだ。温室を管理している園芸部の先輩なら当然もっている鍵だが何故私が持っているのかと言うと、いけないことだけど先輩の配慮でコピーして貰ったのだ。
「・・・・・!」
鍵が開いてる・・・・・。
ここは開放厳禁の扉だ。几帳面な先輩が開けっ放しにするとは考えにくい。
(ほかに誰かいるのかしら・・・・・・・?)
私は恐る恐る、温室へと足を踏み出した。
お昼とは言え、真冬の太陽光は弱弱しい。
しかし、一歩温室へと足を踏み入れるとそこは適度な気温に保たれた別世界。日光量の厳しい草花にとってここは絶好の避難所だった。
厳しい寒さから植物を守る壁。好きな場所だけど、有り難いとは思うけど・・・・・。
花は大地にしっかりと根をはってこそ花。越冬できない植物を運んできて無理やり咲かせようとする魂胆はやはり不自然な気がするのだ。
人間のエゴというか身勝手。花はそんなこと望んでないかもしれないじゃない。だから私の思考は自然とここに行き着く。
ー先輩を守ろうそして過保護になりすぎてはいないだろうか?
過度に愛することで相手の成長を歪めてしまう。それは花も人も同じ事だと思う。私と付き合うことで、世界が制限されるなんてあってはならない。
そもそも・・・・・。元子猫ちゃんたちの前できちっと恋人宣言したわけじゃないのだ。先輩が矢面に立つのを恐れて私はその機会を逃してしまった。
だから彼女達は納得できないのかもしれない。先輩に私を奪われたと思っている。
胸を張って言いたかったみんなの前でこの人は私の恋人だって。だけど・・・。
右手をぎゅっと握って力瘤を作る、リングが指にくいこんで少しだけ痛かった。
いけない、弱気になってる・・・・・。
私は顔を振り回した。
先輩の顔を見ればそんな気分も吹き飛ぶだろう。
「・・・・・・んんっ・・・・・あ・・・・・・・・・ああっ・・・・」
奥から聞こえるくぐもった声。それも複数。
顔を見上げる。木々の間から垣間見る、先輩が居るはずの場所なのに何人かの人間が重なり合っているように。嫌な予感がした。
「・・・・・・はあ・・・・・ん・・・・・」
自分の想像をかき消そうとしたけど、この声は間違いない。よく知ってる、あの時の声に似ている。
用心して、ゆっくりと枝を掻き分けた。そして私は見てしまった。
先輩と女の子達が交じり合う姿を・・・・・。
「先輩!先輩っ!ここ・・・・すごいよ!先輩の」
沙耶香が先輩のあそこに自分の蕾をこすりあてていた。だらしなく口元を開いて快感を追い求めている。
「んん・・・・先輩の舌・・・・気持ちイイ・・・お姉さまのは吸い付いてくるみたいだったけど・・・・先輩のは・・・・はあっ・・・・なんか安心する・・・・・」
セミロングの季乃ちゃんが自分のあそこを先輩に奉仕させている。もはや先輩の口の虜になったみたい。
実紀ちゃんが指を自分の蕾に絡ませて、静流ちゃんが執拗に胸を攻めて、塔子が太腿に腰をすり当てている。その他にもたくさん。先輩を中心に
みんな私の元ペットだった。
全員が陶酔した表情で肌を重ねあっている。それは、先輩も例外じゃなかった。
「ジュル・・・・チュパ・・・ピチャ・・・ん、知らなかった・・・先輩の肌ってこんなに気持ちよかったんだ・・・・」
「んんっ・・・・腰があぁ・・・腰が・・・止まらない!・・・はあ・・・・」
「先輩・・・・・もっと弄って・・・・私のここ・・・」
「ずるいよ・・・季乃・・・・あんたばっかり・・・先輩の舌使って・・・・はあ・・・私にも・・・・」
先輩に触れることすら出来ない女の子達は無心で自分達を慰めあっていた。だからひっきりなしに先輩の体を堪能しようと群がっていた。
(そんな・・・・・どうして・・・・・こんなこと・・・・・)
先輩が自ら体を捧げた−そう思いたくは無い。しかし、時おり見せる先輩の快感で歪んだ顔。それは紛れも無く感じている証だ。
私以外の舌で、指で、女の子で。
私が唯一先輩に触れていい場所に無数の女の子が指を伸ばす。
自分が信じているものが足元から崩れていく。
「!」
先輩と目があった。
一瞬、瞳に映った驚愕の色。でも、それはすぐに快感の波に押されて消えた。
「ほら・・・先輩、もっと・・・・・」
「んん!」
もう見ていられない!私は出口に向かって走り出した。耳をふさいで、全速力で、走り出さずに入られなかった。
あの時視線から感じた愛情を今は感じられなかった・・・・。
「円!」
「お姉さま・・・・・」
追いかけている私に呼び止められ、円ちゃんは驚いた様子を見せる。
「トイレに行きたいの・・・・付き合って」
返事も聞かずに私は円ちゃんの腕をひっぱった。
トイレは符合、これからHするわよって言う私と子猫ちゃんたちとの一種の暗号。
だけど私は純粋に円ちゃんを求めたのではない。心のそこから湧き上がるこの不安を押し留めるに都合が良かっただけだ。
反省することは山ほどあるかもしれない。でも今はこのいごごちの悪い感情に蓋をしたかった。ただそれだけのこと。
その日、私は円の体に溺れた。
何度も舌を這わして、指を絡めあった。
円の肩越しに先輩を感じるまで。何度も・・・・・何度も・・・・・。
「ぬふ・・・・・っくくくく・・・・・・」
座っているだけで不思議と笑いがこみ上げてくる。
先日のお姉さまとの久しぶりの邂逅、と言うか交合だ。アレの余韻がまだ脳内にこびりついているのだ。
目を閉じればゆっくりとお姉さまの唇が近づいてくる。
唇と唇が接触した時のふわっとした感触が・・・・ああ、脳内スキームで補完されていく。
そうなると自然と口もほころんくんもよ。
「円、皆気持ち悪がってるよ」
同じく子猫の季乃が注意してきた。いーや、元子猫と言うべきだろう。なんせお姉さまの寵愛を受けたのは私だけなんだから。にはは。
「それでね、考えたんだけど・・・・・・」
対面に座っている季乃はひとしきり何かを喋っているが私の耳には届いてなった。
なんせ。体は教室に有っても私の心は個室トイレという天上界へ飛躍していたのだから。
『12時の鐘作戦』大・成・功!
「ブイ!」
「部位?」
おっといけない。声に出てたか。
「ほらほら、顔を元に戻して!ちゃんと話聞いてよ!」
「話って?」
そういやクラスメイトでもないのに何で教室にこいつがいるんだ?
季乃は私に近づいいてそっと耳打ちしてきた。どうやら極秘の内容らしい。
「例のリングのこと。お姉さまが先輩に返したらしいの」
「えーーー!」
やった!私は心の中で快哉を叫んだ!
「しっ!声が大きい」
「ごめん」
「もうっ・・・・気をつけてよね・・・・・。それで水無月先輩は気落ちして、今日も学校に着てないの三年生は登校日だっていうのに・・・・」
「お姉さまは?」
「なんか、へたに迫力があって近づきがたいのよね・・・・・・。拒絶のオーラが目に見えるくらい」
「ふーん」
と生返事の反面、内心ではでほくそえんでいた。
「いい傾向だわ」
「そうね、傷ついた水無月先輩を慰めてあげれば急接近のチャンス!」
「そうそう、先輩と急接近する・・・って何よそれ!」
脳味噌の神経回路が季乃の言葉を伝達するまで、たっぷり時間がかかった。
「あら、言わなかった?私ターゲットを水無月先輩に乗り換えることにしたのよ」
「聞いてないわよそんなこと!」
「またっ声が大きい」
季乃は唇に人差し指を立てた。
隣の席に座っている芹澤さんが参考書越しに非難の目を向けている。
「・・・・・・っと。それで?」
「やっぱり。さっきの話聞いてなかったの?道理で無反応だと思った」
「どうしてなのよ」
「う〜ん。なんかお姉さま以外の選択肢もいいかなって思えるようになったのよ。考えてみればさ探せば色々居るじゃない相手なんて」
競争相手が減ったのは喜ぶべきことだろう。しかし、季乃の顔なんだがやたらとすっきりしてやしないか?作戦がどこか、致命的なところで食い違って居るような気がした。
「あんた、水無月先輩になんか言われたの?」
「別に、とにかくそう言うことだから・・・・・」
ガタンッ!
私は急いで席を立った。
「何処へ行くの?」
「決まってるでしょ、お姉さまの所よ」
「聞いたよシンデレラ」
振り返ると頼子が居た。
ここは第二校舎の屋上。裏手にあるなだらかな山と畑の混じる新興住宅地が一望できる場所でもある。
頼子は私の隣に立って手摺にもたれた。たぶん、私の変化を察して何も言ってこなかったのは人気がなくなるのを待ってたのだろう。
「指輪、返したんだって?」
「違うよ」
「?」
「投げつけたの、先輩に」
「うわ・・・・・・」
ごもっとも。これにはちょっとやりすぎたと自分でも反省している。さらに先輩は私に指輪をつきかえして来た。先輩もあれで元々激しい人だから必死に私のもとへ返そうとしてきたのだ。指輪さえ持っててくれればいい。そんな態度に私もついムキになって。あとは泥沼。
「じゃあ指輪はその後どうなったの?」
「私が持ってる。あげるよ頼子に」
「私が貰っても解決にならないわよ」
「解かってるけど、今はそれが重荷なの」
「・・・・・預かっているだけ。それでよければ」
こうして指輪は第三者の手の元に。
「ふう、新しい恋人でも探す?」
「ううん・・・・。本当はね嫌いになったわけじゃないの。むしろ別れたくない」
「じゃあ、どうして指輪を投げつけたりしたの?先輩電話越しで泣いてたよ」
「そうよね・・・・・、泣いちゃうよね普通は」
視界に温室の建物が映った、でも今日は先輩居ないはずだ。
「経緯は聞いてる?」
「大体は。あなたの子猫ちゃんたちが先輩を懲らしめようとして、逆に返り討ちにあったって聞いてる」
「おおむねそんなとこ・・・・・。私ね先輩と付き合うようになってから無理させていたんじゃないかと思ってたの。先輩に甘えて、一緒にご飯食べたり出かけるのは楽しかった。体だけの関係じゃなく。身も心も先輩に預けたかった。でもね・・・・」
私は言葉を区切った。正確にありのままの言葉を頼子に伝えるために必死で言葉を紡いでいく。
「でも、先輩は本当にそれで良かったのかな?」
「そりゃ、嬉しくないはずは無いわよ。あんた達って傍から見ても引くぐらいラブラブだったもん」
頼子は首をかしげて私の顔を覗き込んできた。
「うん、付き合うのは喜んでくれたと思う。私が先輩を好きなのも本当の気持ち。でもさ、そのせいで私とあの子達が不仲になって、あんなことが起きて・・・・・・。先輩は元は私の子猫の一人だったし、そこまでは望んでなかったかもしれない。今よりほんの少し仲良くなりたかっただけなのかも。私が先輩を恋人にして、特別なものにしてしまったから、私の勝手な気持ちで先輩は・・・・・」
「思いつめるのは止しなさい体に悪いわ」
「でも・・・・・。私が不用意だった」
「過去を振り返らない。水無月先輩のことが好きなんでしょう?」
「・・・・・うん」
「だったら・・・行動すればいいじゃない。あれは嘘でしたって、家に押しかけて思いっきり抱きしめるの。それで解決よ」
「無理よ、私だって本当はそうしたいけど・・・・」
「ん〜〜〜〜」
頼子は頭をクシャクシャにした。こんなにいじけている私に耐えられないと言う感じ。
「なんで?出来ない理由なんてあるの?」
「だって、先輩って一度も私のことを好きって言ってくれなかった!」
言葉なんてうつろいやすい、あやふやなものと私は思っている。でも、それがどうしても必要な時があるのだ。今の私みたいに。
「私は先輩が何を考えてるのか解からなくなってきたよ」
ほんの一言、好きって言葉があれば、私の気持ちも変わってくれるのに。リングの無い右手が何だかやたらと落ち着かない。
「付き合ってだめになる恋人なんて恋人とは言わないわ。あんたは少し接し方を間違えただけ」
五時間目のチャイムが鳴った。頼子は必死で慰めてくれたけど、その言葉は届かなかった。
「もう行かなきゃ・・・・・」
私は頼りない歩き方で昇降口へと向かう。
入口の傍に円ちゃんが居た。
「あ、あの・・・・・・」
私は一瞥もせず通り過ぎた。
お昼の鐘が鳴り響く中、シンデレラは現実に帰る。王子様もカボチャの馬車も居ない現実へ。
そうして、冬が過ぎ、先輩が卒業して、季節は春を向かえた。
陽気な顔で下校していく新入生たちが桜並木を通り過ぎていく。普段の私ならさっそく物色している所だろうが、今は違う。
あれから子猫ちゃんともだれとも肌を重ねてない。
学校では先輩の咲かせたマーガレットが話題になっている。それは見事花を咲かせているそうだけど、私は見に行くつもりは無かった。受験生だというのに参考書を開く元気も無い。なんにもやる気がおきないまま。私は春を迎えていた。
そんなある日、家に帰るとポストに入っていた先輩からの手紙を見つけた。
ただ今もそこそこに二階へ駆け上がると震えた手で封をひらいた。そこには落ち着いた和紙に丁寧な文字が便箋いっぱい広がっていた。
時候の挨拶、そして本文。あの時の謝意、向うでの生活、近況がつらつらと綴られている。私は文面を期待に満ちた眼差しで見つめる、終りから最後まで幾度も幾度も、私は先輩の言葉を探した。でも、何処にも先輩の気持ちなんて書かれていない。
「無い・・・・・・どこにも・・・・・」
はらりと先輩の文が床に落ちる。便箋が裏返るとそこに私は数行の文字を見つけた。
(そうか、書ききれなくなったから裏に書いたんだ)
『最後に、取りとめもないことを書いてごめんなさい、本当はもっともあなたに伝えたい気持ちがあるの−』
私はドキドキしながら次の行へと目を移した。こんなに緊張するのはいつからだろう?
『でも、その言葉はとっくにあなたに送ったものです。今ごろだともう届いているころでしょう』
届く?別の郵便があるのかしら?
でも、ポストを探してもそんな手紙はーやっぱり無い。
『とっくにあなたに送った』ってあるけど。どういう意味かしら?私が先輩に貰ったものって言えば・・・・・。
「あっ!」
シルバーリング!
そう言えば表面には何も刻まれてなかったけど、つけっぱなしだったから何か刻まれてあっても私が気付かなかったかもしれない!
そうだ!頼子を探さないと。
今の時間ならまだ学校に残って勉強しているはず。
私はけたたましくドアを開いて外に駆け出す。
「頼むよ頼子!予備校の授業料に困って売り払ったなんていわないでね!」
「頼子!」
図書室のドアが威勢良く開く。その中に私の友達を見つけた。
周囲の視線も気にせず私は頼子の法へ向かう。
「な、何よ突然」
「指輪、今何処にある?」
頼むわ、もう無いなんて言わないでね。
すると頼子は鞄の中に手を突っ込みしばらくごそごそ動かす。そうして開いた手の中には銀色のリングが一つ。
「ほら、いつでも返せるように持ち歩いていたの」
「頼子、ありがとう!」
友達に感謝!
さあ、さっそくメッセージを・・・・・。私はリングの裏側を覗いたそこにははっきりとした刻印で、
「P.S.」
・・・・・たったこれだけ?
またまた謎。どうしてこんな文字を先輩は私に送ったのだろう?そう言えば『今ごろだともう届いている』っていう意味もまだ解からない。
私が必死で頭をひねっている所に頼子が助け舟をだした。
「P.S.ってのは追伸の意味で、後に加えて述べると言う意味よ」
いやいや、そんなことは解かっていますよ頼子君。
「解からないって顔してるわね。出ましょう、ここじゃみんなの迷惑になるわ」
その時初めて、私は図書館で視線が集まっていることを知った。
「追伸ってことは後に続く言葉があるのよ」
屋上へと続く階段で後ろを向きながら頼子が答える。
「それで?」
「鈍いわね。先輩がこの学校に残したものがあるじゃない。今、話題になってるヤツが」
あ・・・・・・・。
頼子が扉を開く。春の陽光がゆっくりと私の体に降りそそぐ。
眼下に広がる花畑、それは先輩が残していった卒業制作。その花壇の中にぼんやりと浮き上がるマーガレットの白い文字で短く−
『I LOVE YOU』
風が吹いた、私の心を溶かすような暖かい風が。
「貞節・・・・」
「え?」
頼子が聞き返してくる。
「マーガレットの花言葉よ。確か貞節だった」
「そうだけど、それ一つだけじゃないわ。他にも誠実、予言、慈悲、恋占いそれと・・・・えーとなんだっけ?」
花言葉って一つだけじゃなかったんだ。私は頼子の次の一言が最も相応しいと思った。
「そうそう、心に秘めた愛」
マーガレットの文字。そして花言葉は「心に秘めた愛」。それでもう十分だった。
私は再び家路を急いで先輩からの手紙を引っ手繰る。
住所を確認して貯金箱を叩き割った。
17時の電車で東京行きを決めた。私の右手には銀色のリングが光る。
