02話「契約」


意識を取り戻して最初に感じたのは、コンクリートの冷たさでした。
はっとして身体を起こし、周りを見渡しました。薄暗い、コンクリートで覆われた部屋…、その中央にスポットライトがあたり、そのまた中央に私は裸で横たわっていたのです。
「な、何で…?ここは…?」
さらに、私の首には首輪がきつく巻かれ、それは短い鎖で床のフックへと繋がれていました。
「おや、起きたかい」
「えっ…」
声のした方向に目を凝らすと、人が立っているのが見える。私は慌てて自分の胸や股間を手で隠そうとしたけれど、どうにも裸なので、縮こまって、その方向をにらみつけるのが精一杯でした。
「おいおい…君の方が最初から裸だったんじゃないか。いまさら恥ずかしがることも無いんじゃないか?」
そう言うとその人はこちらへと近づいてきました。私はさっきよりも身を固めて、その人の様子をうかがいました。
細身のジーパン…黒いTシャツ…そして、プラスチックフレームの洒落た眼鏡に、茶髪…。
「あなたが…私をここに…?」
私はほんの幾分か、余裕を感じました。だってその人は、いたって普通の、その辺に居そうな、「ちょっとかっこいいお兄さん」といった感じだったんですから。
しかし、その余裕も、すぐに打ち砕かれました。
「ああ…そうだ。いやあ、ナイスタイミングだったよ」
「…?どういう…事ですか」
「ふふ…前に飼っていた女が使い物にならなくなってね…新しいペットがほしいところだったんだよ」
ひゅう…と冷気が私の身体をかすめていき、男の目の輝きが変わったのです。
「いいか。お前はこれから俺のペットだ。俺のことは『ご主人様』と呼べ」
私は背筋がぞっとするのを感じました。
「そ…そんな…!い、嫌ですっ!家に帰してください!」
私は勢いよく立ち上がろうとしたのですが、鎖が短く伸びきってしまい、首に、ガクン、と衝撃を受けて倒れこんでしまいました。
「あ、あうっ!」
「くく…満足に立ち上がれもしないじゃないか…。お前は犬だよ。素っ裸で鎖に繋がれて、立ち上がることも出来ず、外で糞をする犬畜生だ…」
「そ、そんなことっ!」
「早く認めて、俺を『ご主人様』と呼びな…」
「い、いやあああっ!かっ、帰してっ!だれかっ、だれかっ!」
「うるさいな…」
ひゅっ…バシンッ!
「うああああっ!」
男は、どこからか取り出した、ムチのような、棒のようなもので私の腿を叩き出したのです。
ひゅっ…バシッ!
「くああっ!」
ひゅっ…バシッ!
「あああっ!」
「さあ…早く認めないと、脚が真っ赤になってしまうぞ?それとも…ケツを真っ赤にして、猿にでもしてみようか」
痛みで倒れこんだ私のお尻に、男は容赦なくムチを叩きいれてきます。
ひゅっ…バシッ!
「いやああっ!うああ…や、やめてえ…」
「じゃあ…早く言うんだ…」
ひゅっ…バシッ!
「いいっ!言いますっ!!くうっ!」
「お前は俺のペットだ…認めるか?」
ひゅっ…バシンッ!
「いひいいっ!は、はひっ!み、認めますぅっ!ご、ご主人様あっ!」
「じゃあ、お前は誰だ?言ってみろ」
「わ、私は…ご主人様のペットの…雌犬、です…うう…」
「ふん…まあいいだろう…」
「うあ…ううう…」
打たれた部分がじんじんと熱を持って、びりびりとした痛みはまだ肌から離れません。
「そういえば…名前はなんと言う」
「は、はいっ…た、滝野しのぶと言います…」
「ふふ…しのぶか…これからよろしくな…」
…ご主人様はそう言うと、私の頭をひとなでして、薄暗い部屋の奥にあるドアから出て行ってしまいました。
しばらくするとスポットライトも消え、部屋の中は真っ暗になりました。
じんじんとした痛みを感じながら、私は家族の事や、友達の事を考えていました。しかし脱出するという事を考える気力はもう在りませんでした。
今は何時頃なんだろう…。恐怖と悲しみで、いつまでも眠ることが出来ませんでした…。

つづく

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